安吾のハッカ煙草

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【入門】森見登美彦の最初の一冊は何がおすすめか?

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  森見登美彦の最初の一冊に読むべき本を考えます。本当はドストエフスキーカミュ、ジュネ、谷崎潤一郎三島由紀夫安部公房村上春樹あたりのどれかにしようと思っていたのですが、ふと、現代日本で一番勢いのある作家の一人である、森見登美彦にスポットライトを当ててみようと考えつきました(気まぐれです)。僕自身はフランス文学、明治大正昭和の日本文学、思想・哲学、政治学社会学あたりの人文書をメインに読む層なのですが、この森見登美彦という作家もまた好んで読んでいます。現代日本の作家はあまり読まないのですが、森見登美彦の『太陽の塔』を何気なく読んでからというもの、彼の著作はほぼすべて読み込むまでにハマってしまいました。

 


  森見登美彦京都大学の在学中に『太陽の塔』でデビューし、『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』『有頂天家族』『ペンギン・ハイウェイ』『熱帯』などのヒット作を生み出し続けた、現代日本で最もノリに乗っている作家の一人と言っても過言ではないでしょう。京都を舞台にしたファンタジー物を得意としており、とは言え正統なファンタジーとはまた違った趣があって、現実の京都と何か魔術的なものが融合する、マジックリアリズムを想起させるような作風を確立しています。

 


森見登美彦を理解するための二つの軸

 


  森見登美彦の作品には大きく分けて二つのジャンルがあります。一つは先述のような「京都モノ」というべきか、主に京都を舞台にした面白おかしいプチファンタジー的な物語。『太陽の塔』『四畳半神話体系』などが当てはまります。森見登美彦の十八番である「腐れ大学生モノ」はこれですね。『有頂天家族』は森見登美彦の中でももっとも純度の高いファンタジーの一つではないでしょうか。

  もう一つは『きつねのはなし』をはじめとしたホラーもの。ホラーといっても派手なものではなく、「なんとなく気味が悪いもの」を丹念に描いたような、背筋が少しだけ冷えてくるような物語群です。何か大きな不可解な謎というものが中心にあって、主人公がその外濠を埋めながら、徐々に核心に迫っていこうとするものの、いまひとつ手ごたえというものが感じられないような、そうした「大いなる不可解」というものを物語の中心に据えている印象です。

 


・最初の一冊としてオススメなのはどれか?

 


  さっそくですが、森見登美彦の最初の一冊としてどれがオススメであるか、というのを考察していきます。考察とは言っても、ただ自分の主観的な考えを述べるだけですが。

  それでは早速、森見登美彦の作品を紹介していき、五つ星でオススメ度をランク付けしていきます。(三つ星であれば☆☆☆★★と表現します)

 

 

 

・『太陽の塔』 オススメ度 ☆☆☆☆★

 

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  言わずと知れた森見登美彦のデビュー作。所謂「腐れ大学生モノ」の元祖であり、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。この賞は狭義のファンタジーに当てはまらない、独特の作品が多く選ばれている賞でもあり、その看板通り、「ファンタジーなんだろうな」と思って読み始めると出鼻をくじかれます。

  まず読み始めて驚くのは一貫したストーリーがほとんどない。主人公(森見登美彦?)の周囲の男臭い大学生活について延々と綴られます。しかしそれなのに面白い。文章で魅せるというのは正にこの作品のこと。少々衒学的で、古めかしく、人によっては鼻につくような文体なのですが、ここにユーモアを加味することによって、何とも独特な味わいが生まれています。

  普段よく小説を読むような人には是非オススメしたい作品です。一貫したストーリーがなく、小説としてはかなり変わったタイプのものなので、普段小説をあまり読まない人からすると、何だかよくわからない作品に映ってしまうかもしれません。(まあ、そもそも、ポンポンと小気味よくストーリーが進んでいくようなものを求めている方には、森見登美彦はあまりオススメできません)

  書店で見つけたら、最初の10~20ページくらいを読んでみてください。それで面白いと思ったら、即購入して間違いはないと思います。オススメ度は四つ星。

 


・『四畳半神話大系』 オススメ度 ☆☆☆☆☆

 

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  森見登美彦の第二作。これも「腐れ大学生モノ」に当たり、味わいとしては前作の『太陽の塔』に近い。しかし前作に比べればキャラクターがさらに際立っており、どちらかと言えばアニメ的発想力の強いキャラクター造形になっています。(事実、アニメ化もされています。こちらも名作なので是非)

  あまりネタバレをしたくないのですが、所謂「ループもの」になっていて、主人公の「私」が黒髪の乙女と送る「バラ色のキャンパスライフ」を探す物語になっています。原作とストーリーは若干異なるのですが、湯浅政明監督の元、アニメ化もされています。『太陽の塔』よりもわかりやすい作品になっており、実際、他のブログでもこれが勧められているケースが多いです。オススメ度は五つ星。

 


・きつねのはなし オススメ度 ☆☆☆★★

 

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  『きつねのはなし』をはじめとする、四話の奇譚集(短編集)。所謂ホラーものです。ただ先述のように派手なホラーではないため、衝撃的な恐怖というものを期待して読むと肩透かしを食らうことになります。確かにいい作品ではあるのですが、最初に読む作品となると、少しばかり優先順位は薄いものであるような気がします。オススメ度は三つ星。

 


夜は短し歩けよ乙女 オススメ度 ☆☆☆☆☆

 

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  森見登美彦出世作村上春樹で言えば『ノルウェイの森』的な立ち位置の作品であり、森見登美彦ブームの偉大な火付け役の一つです。これもまあ「腐れ大学生モノ」でしょう。京都の大学に通う「先輩」とその後輩である「黒髪の乙女」のラブコメディ。二人の語りを交互に繰り返しながら、はちゃめちゃな物語を展開していきます。最近ではアニメ映画化もされていましたね。

  この作品、とにかくヒロインがかわいい。「こんな女子いねえよ!」と言いたくなるし、まあ実際いないのですが、まあこういうところがフィクションの醍醐味の一つではないでしょうか(適当)。『四畳半神話大系』に出てきた羽貫さんや樋口師匠なども登場し、雰囲気としてはかなり派手なのですが、肝心の本筋である「先輩」と「黒髪の乙女」の関係というものが、縮まっていきそうでそうならない感じがもどかしい。

  個人としては『腐れ大学生モノ』の中では一番読みやすいものではないかと思います。良くも悪くもしっかりまとまっている。ただ個人的には『太陽の塔』のような、荒削りで、妄想が爆発していくような作品の方が好きです。オススメ度は五つ星。

  ちなみに、この作品に出てくるムーン・ウォークというバーは京都の木屋町にあります。本当にカクテルが安く飲めます。まあ、新宿なんかをはじめ首都圏にも何店舗かあるのですが。

 


・【新釈】走れメロス 他四篇 オススメ度 ☆☆☆★★

 

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  最初に言っておくと、普段よく日本文学を読む方には一番にオススメしたい作品です。中島敦山月記』、芥川龍之介『藪の中』、太宰治走れメロス坂口安吾桜の森の満開の下』、森鴎外『百物語』の五編をそれぞれ森見登美彦風にアレンジした作品になっています。

  そのまま読んでも楽しめるっちゃ楽しめるのですが、やはり「古典作品の換骨奪胎」という性格上、それぞれの作品に親しんでいた方がより楽しめるのは間違いありません。『走れメロス』の疾走感は必見です。オススメ度は三つ星。

  ちなみに、全然森見登美彦に関係ない話なのですが、坂口安吾の『桜の森の満開の下』を読んだことがない方は是非読んでみてください。本当に、本当にうつくしい短編です。青空文庫で読めます。

 


有頂天家族(シリーズ) オススメ度 ☆☆☆★★

 

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  森見登美彦の中ではファンタジーの純度が一番高いと思われる作品。他の作品でもそうなのだが、本作はそれにもましてやりたい放題です。アニメ化もされていますね。三部作の構想らしく、二作目までが発売されています。

  またおそらく森見登美彦の中で初めての「動物(狸)が主人公の作品」です。糺ノ森に住む下鴨四兄弟の三男である矢三郎が主人公。兄弟たちや、天狗の赤玉先生、美しい弁天などに振り回されながら展開していく群像劇。世界観にハマる人、ハマらない人が割とはっきり分かれる作品の一つだと思うので、買う前に少し試し読みしてみるべし。オススメ度は三つ星。

 


・恋文の技術 オススメ度 ☆☆☆☆★

 

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  森見登美彦が初めて(?)京都から他の場所へ舞台を移した作品(五山の話が出てくるので一応京都自体は登場するのですが)。所謂書簡体小説能登半島の僻地へぶち込まれた大学院生の守田一郎が、友人の小松崎、先輩の大塚、妹、片思いの伊吹夏子さんなどに出した手紙によって物語が進んでいきます。また森見登美彦(クラブの先輩という設定)に手紙を出すシーンもあり、どことなくメタフィクショナルな側面もあります。

  個人的には、森見登美彦の一連の作品の中で一番好きな作品です。オススメ度は四つ星。

 


宵山万華鏡 オススメ度 ☆☆★★★

 

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  京都を舞台にした連作短編。京都の宵山の風景が浮かんでくる。面白いことは面白いが、他の作品が派手すぎるためか、ややインパクトは薄く、一番はじめに読む作品としてはあまりお勧めしにくいところか。二つ星。

 


ペンギン・ハイウェイ オススメ度 ☆☆☆☆★

 

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  最近ではアニメ映画化もされた森見登美彦の代表作。小学四年生のアオヤマくんが、街に突如発生したペンギンの群れについて、友達のウチダ君やハマモトさんと研究するという話。この作品、何がいいかというと、この小学四年生のアオヤマくんの一人称語りが素晴らしい。博識でしっかりしているのだが、ああ、小学生なんだなあと感じさせられる部分も随所にあり、なんだかほんわかとした気持ちになれる。腐れ大学生モノとはまったく違うジャンルだが、個人的には結構オススメしたい一冊。四つ星。

 


・四畳半王国見聞録 オススメ度 ☆☆★★★

 

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  短編集。高尚な文体でくだらないことを書いたという面で言えば、おそらくこの小説に比肩するものはないのではないかと思われる。個人的にはかなり好きな作品ではあるのだが、クセが強いため、初めて読むにはあまりお勧めできないかもしれない。二つ星。

 


・聖なる怠け者の冒険 オススメ度 ☆☆★★★

 

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  長編小説。森見登美彦には珍しい社会人が主人公の小説、いや、珍しくはないか。四畳半神話大系の「私」がそのままずるずると大人になってしまったような主人公。宵山万華鏡を読んでからこちらを読んだ方が楽しめる。あと、おそらく、これほど評価の割れる作品はない。初心者にはあまりお勧めできない一冊。二つ星。

 


・夜行 オススメ度 ☆☆☆☆★

 

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  夜行はいいですね、賛否両論ありましたが個人的には結構好きな作品です。鞍馬の火祭りで姿を消した長谷川さんにまつわる物語。作品群の中でいえば、きつねのはなしと同じようなタイプ。腐れ大学生モノのようなふざけた感じはありませんが楽しめます。何となく夏の夜に読みたいような感じがしますね。オススメ度は星四つ。

 


・熱帯 オススメ度 ☆☆☆★★

 

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  最新長編。『熱帯』という、誰も最後まで読んだことのない不思議な小説にまつわる物語。いわゆる入れ子構造になっており、物語の中にまた新たな物語が展開し、伝説の小説を探しているつもりが、知らない間に冒険活劇へ。普段あまり小説を読まない人からすれば、もしかすれば置いていかれてしまうようなスピード感です。直木賞候補にもなりましたが惜しくも落選してしまいました。個人的にはとても面白い作品だったのですが、最初の森見登美彦の作品として適切かと問われれば微妙な気がします。オススメ度は星三つ。

 


  以上になります。結論を言えば、四畳半神話大系か夜は短し~、ペンギン・ハイウェイあたりでしょうか。最後にTwitterで取ったアンケートを載っけて終わりにしたいと思います。

 

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  ※なお、新作品が出れば随時更新していくつもりです。また、殴り書きのような形になってしまったので、日常的に、ちょくちょくと手直しをすることがあるかもしれません。

 

 

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